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パーキンソン病と便秘：パーキンソン病による便秘の予防と治し方

パーキンソン病は、欧米では古くから知られていた病気で、近年、高齢化に伴って日本においても患者数の増加が顕著な神経変性疾患の1つです。パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで発症頻度の高い脳神経系疾患となります。パーキンソン病は、脳の中の神経に異常が起こることにより発病し、さまざまな症状を呈します。便秘もまた、パーキンソン病の自律神経症状として代表的な症状となります。パーキンソン病の治療には、L-ドパや抗コリン薬などのお薬が用いられますが、これらの薬物治療によっても副作用としての便秘が生じます。パーキンソン病に伴う便秘は、原疾患とそれに対する薬物治療が原因となります。パーキンソン病は、難治性疾患として指定されている特定疾患ですが、パーキンソン病にとって便秘はとても深刻な症状であり、原疾患の治療と合わせて、その対策も重要となります。ここでは、パーキンソン病と便秘についてお話します。

ヒトの脳は、大脳、小脳、脳幹の3つに分類されます。そのうち、パーキンソン病では、脳幹に属する中脳の中の「黒質」とよばれる部分と、大脳の中で「大脳基底核」とよばれる所にある「線条体」という部分に、異常が生じて発症することが明らかとなっています。脳組織は、神経細胞という細胞が集団で結合した組織体です。脳は、脳神経細胞で構成されている臓器となります。各脳神経細胞は、独立した細胞なのですが、その細胞と細胞との間では、さまざまな外的あるいは内的情報に対して、協調的に連動し、一種の情報伝達を行っています。これにより、体全体の生命体としての維持を保ち、生命を持続させる働きを担うことになります。各神経細胞の間のコミュニケーションは、ドパミン、セロトニン、アセチルコリン、といった化学成分によって行われています。これらの化学成分によって、個々独立した各神経細胞に連携・連帯性が生じ、脳という一つの臓器が形成されることになります。上記の神経細胞のコミュニケーションにおける化学的媒体は、神経伝達物質とよばれます。

パーキンソン病では、黒質部位に異常が生じ、その結果、その脳部位の正常な神経細胞が減少します。そのため、黒質部位の神経細胞で生成される神経伝達物質であるドパミンの産生量が低下し、黒質から線条体に向かう神経情報伝達が遮断されることになります。これにより、さまざまなパーキンソン病特有の症状が現れることになります。脳の黒質で生成するドパミンの量が、正常の人の20%以下まで低下すると、パーキンソン病の症状が現れるといわれています。

パーキンソン病の症状はさまざまですが、大きく2つに分類されます。1つは運動障害性症状であり、他の1つは、非運動性障害となります。運動障害性の症状としては、手足が振るえる(振戦、しんせん)、動作・動きが遅くなる(無動)、筋肉がこわばって硬くなる(固縮)、体のバランスが悪くなる(姿勢反射障害、転びやすくなる)、といった症状がみられます。この症状により、顔の表情の乏しさ(喜怒哀楽の表情がない)、小声(大きな声での表現が無い)、小書字(紙に文字を書くと小さな文字で書く)、屈曲姿勢(前かがみの姿勢で、胸を張って立つことができない)、小股・突進歩行(歩く時の歩幅が狭く、ちょこちょこと歩く)、といった症状が現れ、身近な人にもその症状を認識することができます。

パーキンソン病では、上記の運動性障害症状以外の症状も現れます。最もよくみられる症状は、便秘および頻尿などの自律神経症状です。便秘は、パーキンソン病の典型的な症状となります。排便機能として重要な腸管運動をコントロールしているのが自律神経ですが、パーキンソン病の発症により、その自律神経が乱れ、パーキンソン病では便秘が生じます。便秘などの自律神経障害以外の非運動性障害症状としては、不眠などの睡眠障害、うつ症状、認知機能障害(認知症)などの症状が現れます。これらの症状は、パーキンソン病の非運動性症状といいます。パーキンソン病で便秘が多い理由の1つは、原疾患の特質によるものです。

パーキンソン病は、平成27年1月の時点で、厚生労働省において難病に指定されている疾患です。本邦における有病率は、人口10万人あたり100～150人と推定されています。日本では、約10～15万人のパーキンソン病患者さんがいることになります。パーキンソン病の発症年齢は、50～65歳に多くみられますが、高齢になるほど発病率が増加する傾向があります。

パーキンソン病の中には、40歳以下で発症することがあり、まれに10代でも発症することが知られています。これら若くして発症したパーキンソン病を、若年性パーキンソン病といいます。若年性パーキンソン病の人には、血縁者の人にもパーキンソン病を発症していることが多いために、若年性パーキンソン病は、家族性パーキンソン病ともよばれます。家族性パーキンソン病は、遺伝的素因で発症すると考えられています。若年性パーキンソン病では、高齢者で発症するパーキンソン病とは異なる特徴があります。1つは、病勢の進行がとてもゆっくりしています。2つ目は、お薬の効果が長時間続きます。3つ目は、表情が乏しく、動作がゆっくりとした寡動が主な症状であり、手足の振るえである振戦の症状が少ないです。4つ目は、前のめりのまま歩き、歩くスピードの調整ができずに突進してしまう姿勢反射障害の症状はあっても軽度であり、転ぶことは少ないです。

パーキンソン病は、国が指定する難病に位置づけられた疾患となります。パーキンソン病の治療法には、薬物治療、外科治療および理学療法(リハビリテーション)の3つの種類がありますが、治療の中心は薬物治療となります。薬物治療によって、パーキンソン病の諸症状は抑えられます。薬物治療の基本となる薬剤は、L-ドパ(レボドバ)とよばれる薬剤とドパミンアゴニストとよばれる薬剤です。いずれも内服薬です。パーキンソン病では、脳内のドパミンという神経伝達物質が欠乏しています。そこで、薬物治療では、不足しているドパミンを補給
することを治療の目的としています。L-ドパ製剤(ドパゾール、ドパストン)は、服用後、脳内でドパミンに変化し、内因性ドパミンと全く同じ働きを行います。ドパミンアゴニストは、化学構造上、ドパミンそのものとは異なりますが、神経細胞に対して、ドパミンと同様の働きを行います。アマンタジン(シンメトレル)、タリペキソール(ドミン)、プラミペキソール(ピーシフロール、ミラペックス)、ロピニロール(レキップ)、ロチゴチン(ニュープロパッチ)、アポモルヒネ(アポカイン)、カベルゴリン(カバサール)、ペルコリド(ペルマックス)、プロモクリプチン(パーロデル)などのお薬があります。

L-ドパやドパミンアゴニストは、パーキンソン病の諸症状を改善させますので、パーキンソン病の治療において必要不可欠なお薬といえます。しかし、これらの薬剤には、腸管運動を抑制する作用もあり、これにより頑固な便秘が副作用として生じます。パーキンソン病では、原疾患を起因とした自律神経系障害による便秘と薬物治療による副作用としての便秘が生じることになります。このように、パーキンソン病では、病気と治療の2つの側面で便秘が生じることになります。しかも、このようなパーキンソン病の便秘においては、通常の便秘薬による下剤での治療では十分ではなく、難治性の便秘となり、それにより腸閉塞(イレウス)の状態になる危険性があります。このような状態が続きますと、栄養状態が悪化し、体重も急激に減少します。パーキンソン病の人が便秘になりますと、L-ドパなどの治療において、薬物の腸管からの吸収が遅延し、パーキンソン病の薬物治療にも影響することが報告されています。パーキンソン病は、経過の長い疾患ですが、便秘による栄養障害と便秘による薬物治療に対する影響が、パーキンソン病の治療上の大きな問題となっています。

パーキンソン病の便秘治療に、通常の刺激性下剤(いわゆる便秘薬)は、有効ではございません。パーキンソン病は、長期の病気となりますので、便秘が生じたその都度、刺激性下剤を措置しますと、その反復使用によって、刺激性下剤(便秘薬)の効力が失われることになります。もはや、刺激性下剤で、便秘症状を改善することができなくなります。パーキンソン病の便秘に、便秘薬は向いていないということになります。

長期にわたる便秘に対する対策として、刺激性下剤などの便秘薬による治療は適当ではございません。長期に服用しても、便秘改善効果が減弱しない便秘対策が、パーキンソン病の便秘治療に求められています。近年、便秘薬では効果が期待できない慢性便秘の改善に、イヌリン食物繊維という水溶性食物繊維が注目されています。イヌリン食物繊維は、ゴボウ、ニンニク、玉ねぎなどの多くの根菜類や野菜に含まれる天然成分で、医薬品ではございません。しかし、便秘に対するイヌリン食物繊維の効果は、非常に有用的です。便秘薬とは異なり、長期にわたり反復投与しても、効果の減弱がみられません。また、刺激性下剤とは異なり、腹痛を伴うことがなく、「自然な排泄」として便秘が解消されるところにその特徴があります。水溶性食物繊維であるイヌリン食物繊維は、サプリメントとして市販されています。不純物を全く含まない極めて高純度のイヌリン食物繊維も市販されています。タブレットタイプのスティムフローラがその一例です。イヌリン食物繊維は、急性および慢性便秘のいずれに対しても、有用な食品成分であるといえます。パーキンソン病の便秘に対しても、その効果が多数報告されています。

パーキンソン病は、ゆっくりと進展する病気です。長い病期になりますが、本病期とうまく付き合っていくことが大切です。現代において、パーキンソン病の諸症状は、薬物治療で抑えることができます。また、パーキンソン病とその治療で生じる便秘も、天然成分であるイヌリン食物繊維を用いれば、自然な排泄となって、生活の質(QOL)を向上させることができます。遺伝的素因で発症する若年性パーキンソン病にも有効です。パーキンソン病は、難病といわれていますが、薬物療法と便秘対策を積極的に取り入れることにより、健康な人と同じ生活を送ることができます。

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